遊卵飛行 【陰陽定形詩】

遊卵飛行

   山田維史


朝のテラスに白い帆船が滑る                    帆綱にふるえるのがれゆく夢の気配                 遥かなるものへの想い風にはためき                                                                                       一閃の幻と化す清涼な光速よ

あの夏の日を少年はなにに喩えよう                 青き蝶追いてひとり踏み迷う                    たたなずく影多き丘のほとり                    まさに抽象が少年の思想を領す時刻

きみは森林の幽暗とその香気                    きみは 様式を隠すやわらかい建築                 きみは 天球の磁器に盛られた希望                 きみは天と地とをつなぐ血管

太虚よ太虚よ                           非在の在たる                           我を嘉納せよ

後ろを振りむかず無辺際へ旅につく                 錯綜した道も後もどりしない                    頭を掲げて決意の手綱をとり                    少年は馬上、心の重力圏を脱出する

瑣細な願望が鏡のなかでずれ                    果しなく繰り返してきた殺戮の歴史                 二元論の牢獄で対象は無限に変貌し                 人間は自分自身さえ見失った 

機械仕掛の乳房が子供の狂気を育み                 家庭の医学を繙く臆病な父は                    虚偽の拘束衣で精妙に戒めて                    生きることの困難を制度に取り込む

流れのなかに至高の眼を沈め                    見えざる網目を断って魚を解き放て                 魚児は存在の内奥に水の形を保有し                 行くべきところを誤またない

わたしは一個の分離した生命なのか                 いや、わたしは広がりなのだ                    地図を 宇宙大に書きかえて                    光る馬が時空間の多層をかいくぐる

時間の渓谷に臨み風招すれば                    天精はつらぬく四十六億年の大地層                 古代星雲の大空たる瓊姿と同化する                 捨てた記憶断ち切った個人史

熱い口腔で 葡萄の皮を剥くように                 表象を裏返して 世界を探り                     体系の肌膚が ざらつくので                    存在をめぐって 文脈を組み替える

指先に結晶する様ざまな地平                    入れ子状の空間が繁殖をくりかえし                  ウロボロスの蛇体が一個の卵を産む                 本来、一切が、自己の領域だ

タカク                              タカク                              タカク

カケル                              カケル                              カケル

わたしは万象の関係の綱維に繋がる                 わたしの生命は 此岸の楽器                    わたしの指は 彼岸に触れる                     わたしは証明書の発行をのぞまない

誰もそれを知らないとしても                    賢しらな操作が及ばぬ物質の究極で                 卵が卵孕み孕まれる卵が孕む卵孕み                 わたしは卵の象をとる非存在

星間をめぐりながれる 粒状の気脈                 わたしの体を通過する遊行卵                    食う寝る処に住む処を問わず                    ゆたりゆたりよ色即是空 空即是色

神々の立ち去った神話の内側                    輝かしき単純さよ 振動する形態よ                 すべての地平をつらぬき垂下する卵                 宇宙とは自由な成熟した未生

地上は紫たなびくたそがれの想い出                 凝視の眼に粘質の闇ひび割れ                    遠離一切顛倒夢想 卵を遊ぶ                    五蘊はみな空なり 呵々大笑する卵

笑いが真っすぐに立ちのぼる                    我らは毅然として宇宙の微塵である                 地球の命数 残りわずかに五十億年                 なんとあっけらかんの真相だ

光る馬が翔る                           光る馬が翔る                           少年をのせて

鏡の町に住む 痛ましき贋の球体よ                 囚の片身の想い 心にあまり                    指あとをつけてみる窓ガラス                    緑の薄き膚 薄き脂 あゝ薄紅小窓

花いまだふふめる知りそめの                    浅浅に染む桜衣を返して立ち出ずる                 新しきひとのいのちのほのかな歩み                 成層圏下に 光の羅袖、舞う

野に立つ                                     柏の葉守                                     重なりて                                     さやさや 

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